君を忘れない
トイレの洗面所で、まずはお絞りである程度ケーキを取ってから顔を洗う。

四盛が調子に乗って首筋までつけるから洗うのが大変だ。

鏡で顔を見て、我ながらいい顔だ・・・

そうじゃなくて、誰かが頭まで塗りたくったらしく、よく見ると髪の毛にも結構な量がついている。

苦労して、ケーキは落とせたのだが、まだ肌がべたべたして気持ちが悪く、それにチョコレートの匂いがかなり残っている・・・


(チョコレート!?)


お絞りを見る。

確かにチョコレート色をしている。

一瞬で顔面にぶつけられて分からなかったが、俺はチョコレートケーキで顔面もぐもぐされたらしい。

チョコレートケーキで・・・


「覚えていてくれたのか」


この時間帯はいつもなら学生で一杯のトイレだが、今日はなぜだか誰も使っておらず、俺一人だけが広いトイレに立っていた。

今日、三度目のトイレの窓からの景色。

大きく息をはくとうっすらと涙が出そうになり必死で堪えようとしたが、一人きりという状況と、外の景色が切なく見えてきてしまい余計に流れてきてしまった。

やっぱり、俺はあの人のこと好きだ。

なんで、なんで今みたいになってしまったのだろう・・・

ネオンがやたらと輝いているように思えた。



トイレから戻ると、一次会がちょうど終わったところだった。


「誕生日おめでとう」


一次会で帰る人たちからお祝いの言葉を貰った。

まあ、まだ4日も先の話なのだが、やはり『おめでとう』と言われると嬉しい。



部屋に戻ると、二次会にそのまま残る人はテーブルの周りに座って話している。

あの人もそのなかにいた。

去年と変わっていない、いつもの笑顔だ。
< 45 / 203 >

この作品をシェア

pagetop