君を忘れない
「今日・・・

ケーキ・・・

トラさんでしょ」


3人が話しているなかをなかなか切り出せなかったが、大通りの歩道橋の下で途切れ途切れになりながらもようやく言えた。


「チョコレートケーキがいいって、言ってたもんな」


両手を頭の後ろに組んで、恥ずかしそうに笑う。

そういえば、この人と初めて話したときもこういう仕草をしていて、本当に女の子のように見える笑顔で俺に話しかけてきた。

その姿に恥ずかしながらも俺は、この人が男と知らずに惚れてしまったことがあった。



あの頃と何一つ変わっていないんだな・・・


「そうだ、お前らに言っておきたいことがあるんだ」


今度はどこか遠くを見るように、金網の柵に腕を乗せながら言ってきた。

トラさんの視線は上を向いていて、その視線の先に目をやると神奈川にしては満天に近い星が空一杯に散りばめられていた。

その満天の星空を見ながら感じる風がとても心地よかった。


「2年生、やっぱり毎週飲み会があるとキツイって。

俺、今度OBに話してみようと思うんだ。

その前にお前らには話しておこうと思ってさ」


一瞬にして心地よかった風が凍りついた。


「ふざけるな!」


頭でどうこう考えるよりも、声のほうが先に出た。

頭の中で色んな考えが巡り、訳の分からない状態になっているのが自分でも分かる。

気持ちだけが高ぶっている状態に一番近い。


「今更、いい先輩ぶってんじゃねえよ」


本当は・・・



本当はこんなこと言いたくないのに。



本当は俺だってそれが一番いいと思っているのに・・・
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