君を忘れない
「そうだよ」


こちらを振り返るトラさんの表情は、先ほどと変わらず悲しいままだ。


「お前が直接OBに飲み会を減らしたいって話したら、お前が嫌われてしまうだろ。

けど、お前は会長だ。

会長が嫌われちまうってことは運営する同じ学年である3年生全体が嫌われちまうってことになる、そんなことにはなってほしくなかったから俺が勝手に話しに行ったんだ」


「それじゃ、俺たちのことも考えていたのかよ」


驚いたような声で四盛がトラさんを見る。

どうやら、こいつも全てを知っているわけではないようだ。



それにしても、俺だけじゃなくて、後輩の3年全員のことを考えていたなんて・・・



俺がサークルに入った頃からそうだった。

この人は本当に周りのことばかり気にする人だ。

トラさんは変わってしまったとばかり思っていたが、何も変わってなかったんだ・・・

変わってしまったのは俺だったんだ。


「あんた・・・

馬鹿だよ・・・

なんで・・・

なんで・・・

体壊してまで・・・」


今にも泣きそうになるのを必死に堪えれて喋るが、上手く喋れずに涙が流れてきた。



ずっと、あの日から憎んでいた。

この1年間何も知らないで憎んでいた。

・・・

俺は馬鹿だ。


「お前に嫌な思いをさせて、ごめんな。

お前の姿を見て2年生にはこんな嫌な思いさせないために、今度こそは分かってもらうために話そうと思ったんだ。

次は説得力あるぜ。

なんたって、実際に体壊して酒飲めなくなった奴が言うんだからよ」
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