君を忘れない
「いや、実は実家に帰っていて」


「お前の実家は福井だろ」


「電車が途中で止まって」


「ちゃんと動いていました。

現に俺はちゃんと時間通りに来てるだろ」


「ていうか、九時っていう待ち合わせ時間早くない?」


「もともと俺一人で行く予定だったの。

それに、九時でも全然平気だよって言ったのは、どこの誰だよ?」


「はい、私です。

ごめんなさい」


「よろしい」


午後からも行きたいところがあるのに一時間も遅刻して。

これなら待ち合わせ時間を八時って行っておけばよかったな。

そうすれば、きっと九時ピッタリに来ただろう。


「そういえばさ、この前の飲み会で真一と一緒に飲んでなかった?」


謝ってまだ10秒も経っていないというのに笑顔で話題を変えてしまった。

全く、本当に反省しているのだろうか。


「悪いかよ」


ちょっとだけわざとらしく機嫌悪そうな表情で声を出した。

それで、少しは申し訳なさそうにするようなかよっぺではないと分かってはいるが・・・


「いや、別に。なんだか私嬉しくなっちゃった」


「別に普通だろ・・・

と、言いたいところだけど、実は俺も少し嬉しかったんだ」


不機嫌そうな顔をしていたのに、この一言で一気に晴れやかな表情になってしまった。

けど、この言葉と表情は素直な感想だ。

小山と一緒に飲んだことなんて、一年近くなかったのだから実をいうと、その日の飲み会を一日前から楽しみにしていたのだ。

しかし、これはさすがに恥ずかしすぎて誰にも言えない。
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