君を忘れない
「もともと、症状がまだ軽いから調子良いも悪いもないんだよ」


この病気が発覚したのは五月の半ば頃だ。

医者は早い段階で発覚したのがせめてもの救いだと言っていたが、発覚が早かれ遅かれ結果は同じだ。


「そうなのか」


今日、初めてヒメが暗い顔をした。

こいつはいつも笑っているから、こういった暗い顔を見るのは友達として辛い。


「おいおい、暗い暗い。

なっちまったのはしょうがいないよ」


正直、あまり病気のことは話したくない。

俺がどうこうというより、みんなが暗い顔をするのを見たくない。

その顔を見ると、明るく考えようとしているこっちまで暗くなってしまうからだ。



でも



みんなが悪いわけではないのだ。



恐らく、この病気の話をしたら百人中九十九人はみんな同じような暗い顔をするだろう。

九十九人にしたのは、一人くらいは例外がいそうだと思うのだが・・・


「こうやって、みんなが心配して見舞いに来てくれるから十分だよ。

藤田とだってあんまり話してなかったけど、もう、こうやって笑い合えている。

辛いことばかりじゃないよ」


いつもは明るい病室も今日は静かで、この静かさが余計に雰囲気を暗くしてしまっているように思えてならなかった。


「相変わらずだな」


そう言いながら笑っているヒメの顔は、まだどこか暗い部分を残していた。


「俺、自分が辛いかもしれないってときに、いつも考えることがあるんだ」


ベッドから降り、窓の外の景色を見た。

青く澄んだ空は「雲一つない」という表現がぴったりな天気だ。
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