君を忘れない
「もう夏だな」


窓の外をもう一回見る。

暑そうな日差しが照りつけている。


「お前との約束・・・

できないな」


笑いながら、そう言った。

いつだったか、今年の夏休みに絶対にやろうと言っていたヒメとの約束を思い出した。


「まあ、もともとができるかどうか分からなかったし、しゃーないよ」


俺の体がこんな状態ではできるはずもないし、実際、実現にはかなり勇気がいることだったしな・・・

けど、俺はお前とならやれる気がしていたよ。


「ヒメはまだ夜中やっているの」


「いや、夜中じゃなくて昼間でも原付運転しているときやっていますけど」


冗談のつもりで聞いたのだが、ヒメは平然とした顔で答えた。

あまりにも普通に答えすぎていて、とても冗談とは思えなかった。

「まじで。

いくら原付乗っているとはいえ、昼間にやる勇気は俺にはないわ」


驚きのほうが大きかったが、そんな顔を見せたら調子をどこまでも乗せてしまいそうなので、呆れたような顔をしながら言った。


「おいおい、そんな顔されるのは心外だな」


「えっ、なになに?

トラさん、何やっているの?」


藤田が不思議そうな顔をして、俺たち二人の会話に割って入ってきた。

これは二人にしか分からないことがだから、藤田は知らなくて当然なのだ。

二人にしか分からないことと言っても、別に大したことではないのだが。


「そうか、藤田は知らないんだな」


「別に大したことじゃないよ」


そう、大したことないと言えば大したことはない。

けど、それを約束したことのようにやると、結構大したことになる・・・

よな。


「いいじゃん、別に教えてくれたって」


不機嫌そうに頬を膨らませながらヒメのわき腹を軽く肘で打つ藤田を見て、この二人は本当に仲がいいことを改めて思い知った。
< 65 / 203 >

この作品をシェア

pagetop