君を忘れない

-3-

病院から一歩踏み出すと、暑い日差しが降り注いできた。

日差しだけではなく気温もかなり暑いため、僕を含めて周りの人の着ているシャツは汗で湿っている。

もう七月で夏なのだからこれが当たり前なのかもしれない。



僕はこの暑い夏を人生で今まで何度も経験してきていて、これからも何度も経験して、その度にやはり暑いと思い汗をかくだろう。

しかし、ハマにとっては今年の夏は当たり前ではなく、そして、これが最後の夏になるだろう。



今はまだなんとか歩けているが、そう遠くはない日に歩けなくなり車椅子生活になる。

そして、その車椅子にも乗れなくなってしまう。

食べ物を手に取ることも、食べることもできなくなる。

自分の意思で体を動かすことができなくなり・・・



ハマは死ぬ。



そういう病気なのだ。



本人はそのことを知っていて、本当は辛いはずだ。

自分の死、最後が分かってしまっているのだから辛くないはずがない。

一体、分かっているということはどのような気持ちなのだろうか。

それが、死という残酷なことならば、僕は平然とし笑っていられるのだろうか。

きっと、無理だろう。



だけど



だけど、さっきのあいつは僕たちの前では笑顔だった。

いや、入院したあの日から、僕はあいつの辛い顔を見たことがないし、きっと誰もあいつの辛い顔など見ていないだろう。

本当に大した奴だ。

僕にはあいつのそういうところが羨ましく思うと同時に、あいつをそうさせてしまった現実の残酷さを思った。
< 67 / 203 >

この作品をシェア

pagetop