君を忘れない
「そういえば、知多さんとかゼミのみんなはトラさんのこと『ヒメ』って呼ぶんだね」


「おかしいかよ」


確かに、サークルでは虎姫の『トラ』のほうをとって呼ばれているが、ゼミでは『ヒメ』のほうで呼ばれている。

最初にヒメと呼び始めたのは他ならぬハマだった。


「いや、サークルではトラさんって呼ばれているから、なんか不思議な感じ」


サークルだけではなく大学までのあだ名はほとんどが『トラ』だったから、初めてハマが僕のことを『ヒメ』と呼んだときは誰を呼んでいるのか分からなかった。


「まあ、どっちも苗字に入っているおかしくはないんだけど」


「思えば、あいつが最初に呼び出したんだよな。

『姫みたいだから、こっちのほうがいい』って、みんなの前で大声で笑いながらその日はずっと『ヒメ』って連呼していたっけ。

全く、姫みたいだからって・・・

俺は男だっつうの」


「いや、ピッタリだよ。

トラさん、ユニフォーム姿とか完全に女の子だよ。

私服姿はジャージだけど、ちょっと格好いい女の子って感じで、極めつけはすね毛とか髭も一切生えてないもんね。

今も周りから見れば、ほとんどの人から女の子二人で歩いていると思われていると思うよ。

そりゃ、真一も入学当初は知らずに惚れちゃうよ」


はっきり言って、女の子みたいって言われてもまったく嬉しくない。

小山が僕に惚れていたことを初めて聞いたときは、勘弁してくれって思った。

僕だって、好きでこんな顔立ちしているわけでもないし、毛が薄いわけじゃないのだ。


「ふふふ」


何か企んでいるような笑顔のかよっぺは、人事だと思って僕のことを見て楽しんでいるに違いない。

これでも、このことに関しては一応悩んでいるというのに。
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