君を忘れない
僕はどうしようもない馬鹿だ。

この場所に来たところで何も解決しないし、それどころか余計に辛くなってしまうのに来てしまったのだ。

僕が愛した人との思い出の場所・・・

いや、今は考えるべきことは違う。


「俺、会長になりたいと思っているんですよ」


去年の今頃、恥ずかしそうな顔をして小山は言った。

その時、僕は凄く嬉しかった。

我がことのように嬉しかった。

それが今じゃこんな関係になっているなんて、あの時の僕はこれっぽっちも思っていなかっただろう。

自分の無力さが今の2人の関係を築いてしまったという事実が残酷なまでに僕の胸に突き刺さる。



一体、人通りの少ないロータリーでどれくらい下を向き続けていただろうか。

不意に誰かに左肩を優しく叩かれた気がした。



振り返ってみるが、そこには誰もいなかった。

左肩を優しく叩くこの仕草は、彼女が僕を励ましてくれるときにする仕草だ。



そうだ。

情けないと下を向き続けていたら、本当に情けなくなってしまう。

前を向かなければ、立ち上がれなくなってしまう。

どんなに無力でも不器用でも、情けなくはなりたくない。

立ち止まらずに動き続けなければいけない。



辺りを見ると、少なかった人がもうほとんどいない。

携帯で時間を確認すると、もう京王線も横浜線も終電の時間がとっくに過ぎていた。

前を向くのにこんなに時間がかかってしまった。

眠くなってきたし、もう帰ろう。



さっき、左肩を優しく叩いたのは少しだけ僕を許してくれたということなのだろうか。



原付にまたがり、もう一度振り返ってみるが、そこにはやはり誰もいない。


「いや、許してくれるはずがないな」


そう呟き、原付を走らせアパートへと帰った。
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