君を忘れない
「私も行っていい?」


ほらっ、やっぱり行ってもいいって聞いてきた・・・



行ってもいい?


「えええ」


思わず驚いて叫んでしまった。

その声にバス停にいたほとんどの人がこちらを振り返ってきたので、恥ずかしくなってしまった。


「ちょっと、大きな声を出さないでよ」


「ごめん。

あまりにも驚いたもんだから」


ほとんど人が怪訝そうな顔をしているように、かよっぺも僅かながら怪訝そうな顔をしてこちらに言ってきた。

大きな声で叫べば当然だし、それでかよっぺも恥ずかしい思いをしたのならなお更だろう。


「競艇だぞ」


口に手を当て、周りの人に聞こえないように声を小さくした。


「さっきも言ったでしょ、今日は一日空いているって。

折角だから、いつもトラさんが熱く語る競艇を生で見ようかな」


何ということだ。

あの四盛ですら全くといっていい程興味を持たなかった競艇に、まさか女のかよっぺが興味を持つなんて。

まさかの展開に驚きを越えて、少々戸惑ってしまっている。


「つまらないかもしれないぞ」


「こら、自分が目指しているものをつまらないとか言わないの。

ほら、バス来たよ。

これに乗ればいいんでしょ」


そう言うと、かよっぺは先にバスへと乗ってしまった。



まさか、本当にサークルの人と、しかも女の子と競艇場に行くときが来るとは思いもしなかった。

けど、初めての人がかよっぺというのは何だか納得できるような気がしないでもないか。


「そのバスじゃなくて、こっちだよ」


かよっぺの乗ったバスは戸田市内を回っているバスで、戸田競艇場行きのシャトルバスは後ろに来ていた。


「ちょっと、それを早く言ってよ」


かよっぺが慌てて前のバスから出てきた。



今日はいいレースが見れるといいな。
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