君を忘れない
「こんなところに自販機あるじゃん」


珍しく休憩所に人が来た。

若い二人組の男で、服装からすると誰かのお見舞いにでも来たのだろう。

時計を見ると、ここに一時間もいたようだ。

そろそろ、病室に戻ろう。



しかし、病室に戻ろうにも右膝の感覚が一向に戻ってこない。

右膝を手で抑えながら、ゆっくり立ち上がろうとするが、やはり感覚はなかった。

今のこの状態を二人に知られたくない、同情されたくないので何もないように座っている仕草をする。


(頼む。

早くどこかに行ってくれ)


その思いが通じたのか二人は自販機でジュースだけ買って、俺のことなど気にも留めずにどこかへと行った。



無理やり立ち上がろうとするが、右膝にやはり感覚はなく、前に倒れこんでしまう。



感覚がなくなる周期がどんどん早くなってきている。

そして、感覚が戻るまでの時間が遅くなってきていることが分かる。

体の震えが止まらない。



怖い・・・




「世界一辛い人のことを考えるんだ」


さっき、ヒメと藤田に言った自分の言葉が頭の中に甦る。



辛いときに世界一辛い人のことを考えるのは本当だ。



自分の辛さが鼻くそみたいなもんだろうな、って思うのも本当だ。



そして、こうして右膝に感覚がないときも辛くないというのも本当だ。



辛くなどない・・・
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