君を忘れない
競艇選手はレースだけが仕事ではない。

レースで使うモーターやプロペラも自分たちでやりくりしていかなければならない。

少しでも軽いほうが有利なので、男子選手は体重だって限界の50キロぎりぎりまで落としている。

みんな命がけで頑張っているのだ。

そう、頑張っている・・・


「あいつ・・・

頑張っているよな」


折角、かよっぺがを遣ってくれているのに、またハマのことを思い出してしまった。

思い出してしまったという表現はハマに対して失礼か。


「あいつって、知多さんのこと?」


「うん」


病室でのことが思い出される。

何回か行っているから、ある程度のことは病室のことは分かっているつもりだ。



六人一部屋と言っても、あの病室は狭すぎる。

その狭い病室であいつは毎日一体何を考えているのだろうか。


「世界一辛い人のことを考えるんだ・・・

か」


今、世界一辛い人は一体誰なのだろう。



今、世界一辛い人は一体どれだけ辛いのだろう。



確かに、ハマは世界一辛い人ではないのかもしれない。

けど、十分すぎるほど辛い思いをしているし、僕のなかではハマが世界一辛い人だ。
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