君を忘れない
「考えたんだけど、人が自分の死を知った時ってさ、辛いって思うかな?」


「どういうこと?」


どういうことと聞かれると、具体的なことなど考えてもいなかったので正直困るが、辛い感情とは別の何かが今のあいつを支配しているように思えてならないのだ。


「いや、辛いって思うときもあるかもしれないけど、それよりももっと大きい感情があるんじゃないかって思う」


こちらが振っておいて曖昧なことを言っているのは分かっている。

だけど、違う感情があるのではないかと思うだけで、その感情が一体何なのかまでは分からない。


「もっと大きい感情・・・」


かよっぺが真剣な表情になり下を向く。

同じような仕草を僕もして考えてみる。



もう一度、あの歌の歌詞が頭のなかに再生されると、すっきりしたと同時にハマが抱えている感情はとてつもなく寂しく、悲しくて胸が痛くなった。


「怖い」


「えっ」


「あいつは病室で一度も『怖くない』って言ってなかった。

死に直面したときって、辛いというよりも怖いと思うんだ。

あいつはきっと、一人になったとき怖くなっているんじゃないかな?」


一人になったあいつを想像するが、いつも笑っている奴だから恐怖に怯える姿が想像できない。

だけど、きっと夜も眠れないような恐怖感があいつを襲っているはずだ。

それなのに僕たちの前では、そんな素振りを見せず自然に接している。
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