君を忘れない
「付き合ってあげたら?」


真顔でかよっぺが言ってきた。



何をいきなり言っているんだ。

確かに僕はよく女の子に間違われるけど、僕とハマはそんな趣味はないし、そっち系でもない。


「バ・バカ。

俺ら男同士だぞ。

そんなの駄目に決まっているだろう」


とにかく焦った。

そんなことなったら、とんでもない。


「なに馬鹿なこと言っているの。

私たちが知多さんに毎日付き合ったらいいんじゃない?

私たち二人じゃなくて、ゼミのみんなとかも呼びかけて、毎日お見舞い行ってあげるの」


「そうか。

そうすれば、その時間だけあいつは恐怖に怯えなくてもいい」


そうだ。

僕たちであいつの恐怖心を取ってやればいいのだ。


「俺、帰ったらゼミ長に連絡してみるわ」


「うん!」


ここに来て初めてかよっぺの満面の笑みを見た気がする。

きっと、僕も自分の顔を見たら満面の笑みだろう。



ファンファーレが鳴り響く。

5レースの出走だ。


「ほら、始まるよ」


「おう」


水面には六艇のボートが待機行動でコース取りをしている。

エンジンの音もいつものように僕を落ち着かせるような心地だ。

ようやく、またいつものように競艇が楽しくなってきた。
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