君を忘れない
あまりゼミに出ていなかったから気づかなかったが、藤田はかなりの面白い子だ。

この子もきっとヒメと一緒で、場の空気を一気に変えられるだろう。

さすが、ヒメと同じサークルの後輩だ。


「そういえば、トラさんから聞きましたよ」


「何を?」


「なんで、知多さんをハマって呼んでいるのか」


懐かしい話だ。

俺と同じサークルの友達がヒメと基礎演習のクラスが一緒で、その友達と同じ授業で知り合った。



初対面なのに、めちゃくちゃ話しかけてきた。



初対面なのに、前から友達だったかのように接してきた。



初対面なのに、容赦なく人の話に突っ込みを入れてきた。



そして



それから三日後には一緒に鍋をしていた。



きっと、それがヒメのいいところなのだろう。

人とすぐに打ち解けることができて、すぐに親友のように接する。

友達は大事にする男で、自分がどんなに大変でも友達の心配をする。

だからこそ、あいつの周りにはたくさんの笑顔があるのだろう。



鍋をしたときに携帯の番号とアドレスを交換したけど、ふざけてプロフィールの名前のところに『濱田慧介』って書いたまま赤外線送信したら、あいつずっと濱田って信じていたな。


「聞いたのか。

あいつ一年くらい信じてたからな」


「本当、本人にも言ったけど信じられないくらい馬鹿ですよね」


ゼミの面接で『知多慧介』って呼ばれて、俺が返事したときのヒメの顔は今でも覚えている。

信じられないって顔して、ずっとこっちを見ていた。

質問されているのに思わず顔が笑ってしまった。


「その馬鹿さ加減が面白いんだよ」


面接が終わったあと、ひたすら俺に「なんで?」って色々と聞いてきたな。

本当に懐かしい話だ。
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