君を忘れない
「そういえば、トラさんとの『約束』って、どんなことなんですか?」


そう聞いてきた藤田がどこか申し訳なさそうな顔をしていた。

「言いたくなかったら、言わなくていいですよ」とそんなような顔だ。

確かに『約束』と言われると、聞いていいものか戸惑ってしまうだろう。

けど・・・

かしこまったことではないし、藤田になら話しても構わないだろう。


「ああ、別にいいよ」


今まで二人以外の誰にも話したことがないので、これが初めて他の人に話すことになる。

まあ、そんなに説明がいらないから大したことはないのだが。


「今年の夏休みに、俺とヒメと二人一緒に電車でライブしようって約束したんだ」


いくら、大したことではないと言っても、自分でも驚くくらいにあっさりと言っていた。

恐らく、俺だけじゃなくて目の前にいる口を開けて驚いた表情を見せている藤田も同じだろう。


「ライブっていってもバンドとかじゃなくて、携帯の着うたに合わせて歌うんだけどな」


言いながら照れ笑いをしてしまった。

あっさりはしているものの口に出して言ってみると恥ずかしいものだ。



病室の窓からの景色を見ながら、ヒメだったらこういう時にどういう表情をするのか考えてみた。

きっと、あいつも同じような表情をするのだろうと思うと、ついついまた笑ってしまった。

あいつは俺よりも恥ずかしがって、顔を赤くしながら男の子に告白する女の子みたいになるのだろう。
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