君を忘れない
「格好いい」


両手を顎の前で組み、どこか遠くを見ていて漫画に出てくるような妄想モードに入ってしまっている。

この子は純粋と言えば聞こえはいいが、根が単純なのだろう。



確かに、格好いいかもしれないし、漫画にでも出てきそうなことだ。

けど、こればかりは漫画みたいに上手くはいかないだろう。


「だけど、実際は漫画や映画みたいに上手くいくか分からないぜ。

一般の乗客たちがどういう反応するか分からないし」


自分たち以外に話してみて、他の乗客がどういう反応をするかどうか冷静に考え、言葉では簡単だが実際にやるには改めて難しいということに気づいた。


「でも、約束したときはそんなこと考えてませんよね?」


その通りだ。



この約束をしたときは、ライブをしている車両が大盛り上がりしている図しかお互い浮かんでいなかっただろう。

約束したときの興奮は忘れはしないし、今でも考えたら興奮する。


「知多さんは歌上手いってゼミの先輩から聞いたことありますけど、トラさんってそこまで上手いってわけじゃないですよね?」


「確かにあいつは上手くはないよ。

高音とかなんかそれなりに頑張って高い音出しているけど、全く届いてなくて叫んで誤魔化しているだけだし」


「確かに」と言いたげな表情をして藤田は頷いている。

実際にヒメは下手ではないが、はっきり言って上手くもない。

けど・・・
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