君を忘れない
程よい冷房の風が頬をすり抜けていき、その風とともに俺の頭の中にいた病室で歌うヒメはすり抜けていった。


「なんか、憧れちゃうな。

そういう考え持っている人って格好いいですよ。

私なんか全然・・・」


いつも明るい藤田が珍しく俯き加減になってしまい、こんな藤田の表情を初めて見たので少々戸惑ってしまった。


「私は喋るのが好きなだけで、知多さんたちのようなスケールの大きいこと考えられないし」


喋るのが好きで十分じゃないか


それに喋るだけじゃなく、お前にも人を惹きつけられる魅力があるじゃないか


その言葉が口から出そうになったが、口から簡単に出せるほどの性格ではないことは自分でもよく分かっているつもりだ。


「二人とも馬鹿だからな」


結局はこんな言葉しか俺には出てこなかった。

本当に情けない・・・



けど、実際に馬鹿でなければこんなこと考えもしないだろう。

だから、藤田・・・

頼むからそんなに寂しい顔をしないでくれ。

お前にはヒメと一緒で、これからもずっと笑っていてほしいんだ。
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