君を忘れない
「私、ラジオのDJになりたいんです」


「えっ?」


「いきなり、ごめんなさい。

知多さんたちの話を聞いていたら、私も何かそういうことを誰かに話しておきたくなって。

話してもいいですか?」


本当にいきなりで、咄嗟に言葉が出てこなかった。

でも、冷静に聞いてみるとかなり重要な話をされたことに気づく。


「いいよ」


自分のことだけ聞いてもらって、藤田の話を聞かないのは失礼だ。

それに、俺たちの電車ライブよりも現実的で、凄く重要なことだろう。


「自分の声、語り、表現でたくさんの人を笑顔にできたらって。

思い始めたのは二年の最後のほうから、つまり本当に最近になってからなんですけど、今の私の夢です」


「・・・」


「ラジオの理由は、バイト先で聞いたラジオ番組のDJの話を聞いて私も声だけで勝負がしたいって・・・

まあ、そう言えれば格好いいんですけど、本音を言えばテレビよりも倍率が低そうって思って。

でも、実際はそんなこと全然ないんですよね」


そんな夢を藤田が持っているなんて知らなかった。

ただ何となく就活をしていて、ただ何となく働いていこうと思っていた自分がちっぽけに思えてきた。

こんな後輩がいたのなら、もっとゼミに顔を出しておけばよかったな・・・


「そんなの関係ないよ。

藤田が本気で目指すなら、俺は本気で応援するよ」


本気で夢に向かっている人が目の前にいるのだ、俺も本気でその夢を応援していこう。

きっと・・・

藤田ならできる。
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