海と微熱の狭間で

∟stargaze

車を走らせながら可純はCDをかけた。クラシックが聴きたい気分だったのでモーツァルトにした。アヴェ・マリアの美しい旋律が流れてゆく。


「…葛城くん怒るかな、勝手に深島さんに会いに来たこと知ったら」

原野が小さく笑った。
怒らせとけば、といい加減なことを言う。
可純は呆れて無視した。

「…月帆さんと丘生ちゃん、だっけ?会いたかったな」

丘生とは朝海の二つ違いの妹である。

隠し撮りか知らないが原野が以前くれた写真に写っていた。


どちらかというと深島似でふわふわと優しい雰囲気を持った可愛い女の子だった。


「…似てたね」
原野は何も言わない。
だが心中では彼も思っているはずだ。


可純は夕日がぼんやりと浮かぶ水平線を眺めた。

深島の家から少し離れたとこに海がある。

いいなぁと思ってしまう。


「…可純たち実家にいつ帰んの」
呟くような問いだった。


「明日は東京に用があるから…明後日ね」

健司が苦々しい顔を見せた。


「悠沙の親父んとこ行くんだろ」
可純は苦笑した。

「まあ…結婚の報告も兼ねて」
「よく悠沙が行くっつったなぁ」
原野は感心したように言った。


「…葛城くんはいくら酷いことをされても他人を憎まないよ。自分しか憎まないもの、あのヒトは」

その先は言わなかった。


…それに、罪をおかしても気が狂っても、孝樹さんは誰かを愛せるから。
だから憎めないんだよ。




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