海と微熱の狭間で
「え…」


可純はふふ、と微笑んだ。

葛城は思い切り眉をしかめた。


「怒った?」
「あたりまえ」
原野はああ言ったが、可純はそうするつもりはなかった。

「何で怒るの?」
「え?」

可純は答えが決まっているのを承知で聞いた。

勝手なことしたからだよ。

そう答えてくれるだろうと、思っていた。
しかし期待は裏切られてしまった。

葛城は眉をしかめるのを止めて思案するような仕草を見せだけだった。

「何でって……何でだろう」

自分で自分が解らない様子の葛城に可純はもしや、と思った。

彼は、救われたくないと思いながらも静かに、けれども確実に救われてきているのではないか?

可純は口角を上げながら尋ねる。

「…葛城くんも行きたかった、とか?」

葛城の美しい黒色の瞳が揺らめいた。


「…俺が深島さん達に会いたかったとでも言いたいの?」

可純はにっこり笑ってみせた。

「さあ?葛城くんの方がわかってるんじゃないかな」


葛城が黙り込んだ。
意地悪し過ぎたかな、可純は葛城を盗み見た。


「……あさみ、朝海には会ったか?」
「うん」


あさみ、優しい響きを持っていることに可純は堪らなくなった。




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