海と微熱の狭間で
可愛くて、とても美しい黒色の瞳を持ってる朝海。

可純はそれによく似た黒い瞳を見つめた。


「葛城くんが一度日本に戻ったときには、朝海くんに会ったの」

葛城が小さく頷く。

「…ティディベアを渡したときに、ね。深島さんが会わせてくれたんだ…といっても朝海は覚えてないだろうけど」

可純はティディベアと聞いてS_lowS_nowを思い出した。

葛城は新しく出す群馬のS_lowS_nowの為に、何百体とティディベアの人形を買い集めているのだ。
勿論ロンドン本店にもあるのだが、それとは比べようが無いくらいの膨大な数。


写真と人形に埋もれた葛城の店は、空虚な思い出を埋るためにあるのかもしれない。



「イギリスでは赤ちゃんが生まれたときティディベアを贈るって聞くから」

葛城は店員を呼び、デザートを持って来るよう告げた。

可純は茶碗蒸しを食べ終えていたことに今気付いた。


「丘生ちゃんにも贈ってたよね」
「ああ、うん。あの子には発送で渡すことになったけどね」

申し訳なさそうに笑う。



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