海と微熱の狭間で
「健司くんが隠し撮りしてくれたんだ」

得意気にいう深島に月帆は不思議そうに首を傾げた。

「何で知ってるの?手紙に書いてたんだ?」
「え」

深島は内心しまった、と表情を固めた。

「あ、違うけど」
月帆の疑惑の表情が濃くなった。

「違うの?じゃあ何で?」

深島は数秒前の自分を窘めたくなる。


「あー…うーん…そうなんだけどね」
もう白状してしまおうかと思ってしまう。

だがその時月帆が声を上げた。


「この下のサインを見たから?でも隠し撮りは酷いわよ」

「あ、うん。そうだね」

深島は曖昧に頷くと、月帆が以外にも冷静なのに気付いた。

泣いたのは、結婚すると伝えた初めだけだった。


「…月帆案外普通だね」
月帆が愛らしく笑う。

「乱した姿が良かった?」
「そうじゃないけど…よかったな、と思って」

月帆は強くなった。
それは

「だって朝海くんと丘生ちゃんがいるのよ、お母さんは心を乱しちゃダメなの」

母親の強さだ。
深島はそう言った月帆が眩しくて、ただいとおしくて。

儚かった頃の月帆と想いは変わっていない深島だが、こう思わずにはいられなかった。

愛なんて言葉より、より深い言葉が欲しい。
彼女が好き。
彼女を愛してる。

もっともっと深い言葉を自分は彼女に抱いている。



「---…」
月帆が英語がてんでダメなのを知ってて言った。

こんな恥ずかしいこと日本語じゃ言えないからだ。


月帆がキョトンとして、直ぐに頬を赤らめた。

予想外の反応に深島はえ。と声を飲み込んだ。

「意味知ってるの?」
こんなマイナーな英単語を、そう思ったが言わなきゃ良かったとは思わない。


「学生時代ね、辞書で偶然調べたい単語の近くにそれがあったの。印象深い意味だったから…」


深島は顔が熱くなるのを感じた。


【my】
意味:わたしの

【ladylove】
意味:いとしの女



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