不良彼氏と胸キュン恋愛【完】
「その電話をしてた時、流星がたまたま休憩室に入ってきたんだ。俺は話を聞かれないように慌てて電話を切った。あの時のこと、覚えてるか?」
「いや、全く」
そう答えてみたものの、ほんの少しだけあの時の記憶が蘇ってきていた。
休憩室に入ると、ヒロヤは珍しく慌てていて。
どうせ女と電話してるんだろう。
そう思ってあまり気にしないようにしていたけれど、狭くて静かな休憩室の中では電話の内容は筒抜けだった。
『一週間のうちに5000円用意しないと……――』
『分かった。俺が何とかするから』
切羽詰まった声のヒロヤ。
電話を切るとヒロヤは自分の財布を覗き込んで、ハァと盛大な溜息を吐いた。
いつだって明るくて笑顔を絶やさないヒロヤが見せた、初めての表情。
ヒロヤの財布の中に札は一枚も入っていない。
「おい、どうした。何かあったのか?」
「いや、何でもない!!先、バイト戻るわ」
わざとらしく笑顔を作ったヒロヤは普段通りの明るい声でそう言うと、休憩室を出ていった。