「マッチを買いませんか?」
「……さっきのマッチ箱。あれ、アンティークなのよ……」
「へぇ?」
「魔法がかかってるの。ちょっと貸してちょうだい」
引き下がれない。
失敗してしまうかもしれない。
後悔するかもしれない。
しかし、一歩踏み込んだ今。勢いでやってのけるしかないのだ。
即興(そっきょう)ではあるが、水面下で準備をしながらマッチ箱を受け取る。
「ふふふふ。これ中身は使ったかしら」
「いいや、まだだよ」
「それじゃあ百本きっちり入ってるってことねえ。ふふ」
「どういうことだい?」
シャルロットは、生まれて十四年、これまでで一番残酷(ざんこく)な表情をして見せた。
大の大人、それも男性が怯(ひる)んでいるのが見て取れる。止(とど)めを刺すことにした。
「もし、このマッチ箱が百本よりも少なかったら、どうするかしら」
「そんなことあるはずがない。最初から少なかったんだろう」
「そうかしら、中身を見てみれば分かるわ」
シャルロットは腹の底から笑いたくなった。嗤(わら)いたくなった。
簡単なことだったのだ。金貨など、いくらでも手に入るということが分かったのだった。