「マッチを買いませんか?」
「おばあさん!?」
「シャルロット?」
祖母は食卓でローストビーフを食べている。
こってりとしたソースがかかっており、赤ワインらしい香りが漂(ただよ)っている。
「なにやってんだい、シャルロット」
「…………そんなもの食べて大丈夫なの?」
祖母はきょとんとしている。
眉(まゆ)を歪(ゆが)めて苦しそうな表情を今更浮かべて言った。
「ああ、ああ、そうだそうだ。腹が痛むんだ、これはちょっとやそっと栄養のあるものを食べても治らないねえ」
「おばあさんがおさえているのは頭のようだわ。お腹はそのでっぷりとしてる部分よ」
「口の減らない小娘だね、大体、胸焼けが怖(こわ)くて牛肉が食べられますかっ」
「はぁ…………」
シャルロットは金貨の入った袋をテーブルに置いた。
幸せは、望んでいる幸せは無かったかもしれないが、これもまた一つの幸せなのだ。
「これで好きなだけローストビーフでもワインでも飲みなさいな、おばあさん」
「シャルロット、これは…………」
「明日になったら消えてるかもしれないわねえ。ふふふふふふふふ」
「やりよるなあ…………小娘…………」
「あなたの孫ですから。体調まで自由自在の奇術師さん?」