「マッチを買いませんか?」
数箱、片手で数えられる程度は売れた。
しかし、相場が合わない。
マッチ箱程度では銅貨が何枚かしか手に入らないのだ。どうやってこれを金貨に変えるのか。それを考えなければならないのだ。
家では具合の悪い祖母がベッドで眠っていることだろう。
口は悪い祖母だったが、いつもであればもっと抉(えぐ)り込むような言葉、ただの毒なんかではなく猛毒(もうどく)、それも数グラムで死にいたるような言葉を吐くのに。
覇気(はき)が感じられないのだ。明らかに弱っている。それは分かるのだが。
「マッチ、どうしたら売れるのかしら…………あんまりだわ、神様…………」
お気に入りの赤いスカートも雪で白く染まってしまった。神様がいたとしても、遥(はる)か彼方から舞い落ちる雪に隠れてしまって不憫(ふびん)なシャルロットのことは見えないだろう。だから。
だから、シャルロットは自分自身の力で乗り越えなければならないのだ。
それに、一度言った言葉であったので撤回すること憚(はばか)られる。金貨に、できればこのマッチ箱を金貨百五十枚くらいにはしたいものだった。
シャルロットはため息を深く深く深くつくと何気なく背後の窓から見える風景に想いを馳(は)せた。
それは、ケーキを切り分ける家族の姿。
幸せそうだ。
どこも今日はそうなのだろう。
それなのに、自分は。
ふんわりとしている雪の上にどさっと座り込むとマッチに火をつけてみる。
「そういえば、おばあさんはどうやってお金を稼(かせ)いでいるのかしらね…………」
少し考えてみたのだが、寒さのせいでがくがくと震えてしまいまともにものを考えることができない。
マッチは既(すで)に消えてしまいそうだった。
その時。一瞬だけ幸せそうな祖母の顔が見えたような気がしたのだった。
幻影だったかもしれない。願望だったかもしれない。
シャルロットは月の浮かぶ、白い粉砂糖(こなざとう)のような何かが降る空を見上げる。
「何か燃やしたいわね。暖まりたい…………」