「マッチを買いませんか?」
思わず口にしてしまった言葉。

本音。

働きたい、なんて言葉は嘘だったのかもしれない。祖母の力になりたい、とは思う。

しかし、それはこんな下(くだ)らないものではなく、もっと大きく貢献(こうけん)できる仕事での話だ。

昨日までは夢を見ていたのだ。

祖母と、幸せに暮らしている夢。それを、叶える為に。

そんなちっぽけで確かに光っている、希望。


背後の窓がこつこつ、と鳴った。

シャルロットが顔を上げると、にこやかにしている男性が窓から顔を出していた。

「なあに、あたしに用なの?」

「ああ、そうさ。寒いだろう、中にお入り」

「あたし、あなたみたいにみすぼらしい男の人には興味がないの。ごめんなさいね」

「ははは、そういうことじゃないよ、ケーキが少し余(あま)ってしまったんだ」

シャルロットは腹が鳴るのを堪(た)えて、それでもそっけないふりをした。

身体は確かに幼いそれでも、心はすでに大人なのだ。それでなければ、大人でいたいと思っていたか。どちらかなのだ。

「ケーキで釣(つ)ろうってんなら甘いわよ。そのケーキよりも甘いわ」

「しょうがない子だなあ。じゃあ、こうしよう」

「なぁに?」

男が窓から身を乗り出してマッチ箱を何ケースか掴(つか)んだ。金貨を二十枚もシャルロットに渡してこう言ったのだった。

「ほら、等価(とうか)交換。どうだい?」

「そんなの……幻想よ……」

「いやいや、お金で釣ろうってんじゃないよ。こんなに寒い夜に働いている君にごほうび見たいなモノさ」


その時だった。

シャルロットは油断してしまったのか、きゅるる、と鳴った。

男は気にしていないようだったがシャルロットは赤面するしかなかったのだった。

無言でドアを開ける様子から見て、男も腹が鳴ったのを聞いたのだろう。

シャルロットはちょこんとテーブルに向かうと、しばらく暖炉(だんろ)を見ていることにした。

何も話せることなどなかったし「昨日の夢」にも似たこの有り様を壊したくなかったのだ。

「ほら、ケーキだ。すっごく美味しいよ」

「ありがとう…………」


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