「マッチを買いませんか?」
暖炉が暖かく、口にしたケーキの生クリームは雪よりもふわふわしている。

外の静止している凍(こご)える世界とは打って変っての雰囲気だ。

幸せ、とはこういうものなのかもしれない。


シャルロットは暖炉を眺(なが)めているうちに眠たくなってきてしまっていた。

急に暖かい場所に入ったからだろう。素直(すなお)に眠ってしまうことにした。


それは夢だ。自覚している。

シャルロットは夢であることに気づいていたが、敢(あ)えて起きる気もしなかった。

何故ならば、それはとてもとてもとてもとても幸せな夢だったからだ。

今よりももっともっともっともっと幼かった頃のある日のことだ。祖母が意地悪な笑顔を持ってシャルロットに話しかけている。

「シャルロット、今いくら持ってる?」

「これしかないよ?」

「なんだい、あんたぬいぐるみしか持ってないじゃないか。そんなんじゃあ何も買えやし
ない」

「おばあさん…………?」

祖母は明らかに不機嫌(ふきげん)な顔をしてシャルロットを睨(にら)み付けている。

しかし、やさしい手つきでシャルロットの髪の毛を撫でた。

もう片方の手にはマッチ箱が握られている。


「いいかい、このマッチ箱をよく見ておくんだ」

「うん!」

「さぁて、このマッチ箱の中身はどうだい?」


からからと音がなるそれにはマッチが一本しか入っていない。シャルロットは確かにそれを見たのだった。

「マッチが一本あるよ!」

「そうだねえ。一本だねえ。ふふふふふふふふふ」

「おばあさん、怖(こわ)いよ…………」

不気味、という表情をしている祖母が再びシャルロットの髪の毛を撫でた。

気持ちが良いことだけを覚えていたのだが。シャルロットは夢の自分を眺(なが)めているうちに違和感を感じたのだった。

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