「マッチを買いませんか?」

「賭(か)けをしよう、シャルロット」

「どんな賭け?」

「このマッチ箱の中身を当てるのさ。ひひひひひひひひひひひひひ」

「おばあさんは何を賭けるの?」

「あたしゃあ、あれだね。金貨を三十枚。シャルロットは?」

「わたしは来月のお小遣いを全額!」

この時だった。祖母の表情が一瞬変わった。

狡猾(こうかつ)な笑みを、極悪な笑みを浮かべてマッチ箱を叩(たた)いてみせた。

「シャルロット、来月は何か欲しいものがあるのかい?」

「うさぎのぬいぐるみが欲しいの!」

「そうかいそうかい…………それじゃあ…………」

マッチ箱を開けたときに、祖母は邪悪(じゃあく)な声を出して言った。

シャルロットははっきりと思い出したのだ。

幾(いく)晩(ばん)も泣いて過ごしたことを。

「その人形は諦(あきら)めるんだなあ、はっはっはっはっは!」

「うわぁぁぁぁー! なんでー!」


マッチ箱はいつの間にか完全な状態に戻っていた。一本も使われていない、新品になっていたのだった。


そして、遠くで声が聴こえてきた。

聞き慣れない声だった。


ゆっくりと目が覚めていき、食べ残しのケーキが見えるのだった。

「眠ってしまったんだね。もう六時になるよ」

「…………あら…………」

「もう、今日はお帰り。また明日、来てもいいからさ」

さっきの夢が本当の、現実世界で起こったことだとすれば。もしかしたら。

シャルロットは家に帰ることなどできなかったし、考えてもいなかった。


もしシャルロットが自分の表情を見る事ができたなら、思うだろう。

「あの時の祖母と同じ顔だ」と。

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