結婚式
「アスラン様は、とても素晴らしいお方です」
にこりとジュリアは笑う。
使用人が主人を持ち上げている。
男性として見ている様な言葉は言わないようにしなくては……。
「眉目秀麗、文武両道、天は二物も三物も与えている、才気あふれる方ですわ」
「まあ……。でも、以前付き合っておられた方はおられますか?」
それはナイフのようにジュリアの心に突き刺さる。
どうして、こんな質問に答えなければならないんだ。
「……いえ、そのような事はございません」
「…………そうなの? 私はてっきり、あの人には思い人がいるとばかり」
彼女は何も知らない。悪意のない人だ。
ジュリアの表情の変化に気付くこともなく、そのまま話し続けた。
「以前お話した時に、感じましたの。アスラン様はどこか遠くを見ておられて……。私を視界に入れていても、別の人を見ている。そんな目をしておりましたわ」
「…………」
「でも、よろしかったのかしら。両国の平和のための政略結婚であの人と私が結婚して」
「……」
悪意はない。ただ純粋にそう思って言っているのだろう。
ぐっと、ジュリアは唇を噛んで耐えた。
喉元にまで出かかった怒りをなんとか抑えつけていた。
本当なら、言ってやりたい。
怒鳴りつけてやりたい。
だったら結婚するな。分かっていたら結婚するな。
なんで平和の事だけでアスランと姫が結婚するのか。
結婚なんて認めない。
怒りと憎しみとが混じった物が口から出そうになる。
それをこらえるように、じっと、じっとこらえていた。
「……」
「ジュリアさん?」
「えっ……?」
それでも、
こらえきれない思いが、頬を伝っていた。