結婚式


入場する花嫁。彼女は美しい。
それを待つ花婿もまた……。

ぐっと、ジュリアは唇をかみしめる。じんわりと口の中に鉄の味が広がる。

もう、どうにでもなってしまえ。
もう、どうでもいい。


諦めなくてはならないのだ。
彼は結婚する。平和のために、国の為に。



「………」

誰もが祝福する結婚式。
ジュリアは淡々とその儀式を見ていた。ほほ笑むこともなくこともできない。
ただ、見ているだけ。見て、拍手をして、それだけ。

式の最中にちらりと目が合うのがたまらなく嫌になる。


「バカ……」

口の中でぼそりと呟く。

届かない。



届いてほしくない。



自分は見届けなくてはならない。長年仕えてきた主人の結婚式を、使用人として。
それが何よりも悔しくてしかたがない。
使用人の自分が憎い。



「新郎アスラン、貴方はこの妻、アンジェラを……」

結婚を誓う言葉。

聞きたくない。
聞きたくない。


聞きたくないッ!


何度も心の中で叫ぶ。

でも、届かない。
届くわけがない。


「誓いますか?」


神父の問いかけ。

アスランはためらうように唇を噛み、そして答えた。



「誓えません」




< 13 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop