結婚式
「失礼します」
結婚を翌日に控えた花婿の私室。
「入れ」
中から男の声。仕えるべき主人の声が聞こえてきた。
メイドはゆっくりドアを開けて中へと入る。
「いよいよ、明日でございますね旦那様」
「……祝いの言葉だけなら下がってくれ」
おべっかを述べようとしたメイドの言葉を、伯爵は遮る。
言葉を奪われ、メイドは次の言葉を出せなくなった。
「で、では、失礼いたします」
逃げるように退室しようと頭を下げ、踵を返す。
だが、伯爵は今度は呼びとめた。
「お茶がほしい。……ジュリアに持って来させてくれ」
「……かしこまりました」
メイドは退室する。
一人残った伯爵。
彼は窓の外から目線をはずす事はなかった。
明日、彼は結婚する。
国が決めた結婚相手と。
あらがうことができない宿命。
「なんで俺が……」
苦々しく、吐き捨てた。
その時に、ティーセットを持って使用人が来た。
「お茶を、お出しに参りました」
「……ありがと」
彼女が部屋へと入っていった。