ペテン師の恋
幼い頃の思い出なんて、美里には何一つ無かった。






母は夜になると仕事へ行き、絶えない男たちと母に連れられて食事にいくぐらいだった。







自分とは違う。






普通の家系で生まれ育った聖だから、より聖に惹かれて行くのだろうか。






「実はね、水族館なんて来たの、初めてなの」






美里はジュゴンを見つめながら話した。






聖は驚いた顔で美里を見たが、すぐに笑顔になり、ジュゴンを見つめた。







「じゃあ、美里さんの初めての水族館、俺だけが一緒に過ごせたんっすよね?」






聖はやけに嬉しそうな顔をしていた。






「そうなるわね。何、にやけてるの?」






美里は不思議そうに聖の顔を覗きこんだ。







「だって、好きな人の初めて行く場所なら、思い出は俺だけってことでしょ?」







好きな人…






その響きで、美里の顔が赤くなった。







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