ペテン師の恋
私たちは、タクシーに乗り、私の住むマンションへ向かった。



タクシーの中では無言で、私はチラチラと彼を見ていたが、彼はただ真っ直ぐ外だけを見ていた。



口説く様子もない彼、無言で知らない男といるなんて初めてだ。



大概、誘ってくる男は口説いてくると高飛車になっていた私は、どこか不安にも似た感覚に陥っていた。



私のマンションにつくと、私はお金を支払い、彼を見て、いつもの笑顔を作った。



「今日は本当にありがとうございました。良かったら、助けて頂いたお礼にお店でご馳走させてください」



そういって、私は名刺を差し出した。



「朱美さんか…」



名刺をみて彼はつぶやいた。



「あっ、あたなのお名前は?」



「桐崎朱一。君と同じ朱色と書いて朱一」



そういって彼は微笑む。



「桐崎朱一…さん。どこかできいたことある名前…」



私は必死で思い出そうとしたが、なかなか思い出せなかった。



「明日、お店に遊びにいかせてもらうよ。今日はゆっくりおやすみ」



彼は私の頬に手を触れて言った。



私の作り笑顔が崩れてしまい、顔が赤くなるのがわかった。



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