ペテン師の恋
自分のペースが乱れる。



そんなこと一度もなかったのに、悔しい。



私は気を取り直して笑顔を作り、彼の頬を触る手を握った。



「楽しみに待っています。おやすみなさい」



私は振り返らずに車から降りてマンションへ入った。タクシーが動き出した音がしたときに振り返ると、笑顔を崩さず私を見ている彼と一瞬だけ目が合った。



彼の心が全く読めなかった。



普通に、なんの見返りもなく送ってくれた。



話しもしてこない、私からも話せなかったけど、彼の瞳に私は映されていなかった。



それがたまらなく哀しく感じた。



自分が崩れていく…



私は彼にあまり会わない方がいいかもしれない。



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