ペテン師の恋
朱一は再び私から目を外した。麻酔がまだ抜けきれていないのだろう、呆然と一点を見つめていた。







少しの間、静寂に包まれた。








「本当に、不思議な女だな…」







朱一は小さく呟いた。







「俺は、お前を憎みたかった。でも、どんなことをしても中途半端で、こっちのペースに持ち込めなくて…」








それは、私だって同じだよ。私のペースにはならないと思っていた。








だから、朱一のペースにならないように、必死に反発してたんだ。







「正直、落とせない女はいないと思ってた。ちょっと甘い言葉をかければ、利用できる奴ばかりで、瑞希もその中の一人」








瑞希…







彼女はどうしたかな?もう、警察に出頭したかな。








でも、瑞希もまた、真剣に朱一を愛した一人だ。私と同じ、それがあったからこそ、あそこまで、真剣に勝負をしたんだと思う。






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