ペテン師の恋
なんだか悔しい。




こんな気持ちになるのは初めてだ。




彼は私と似ている。




それも、人生を長く生きているせいか、私の方が乱されていく。




「あっ!そういえば、桐崎さん小説家だったんですね!私、今日本屋で見て思わず買っちゃいました」




私は話を変えて、彼のことを聞き出すことにした。




「ああ、それはありがとう」




あまり、嬉しそうではなかった。




「あれ?なんか気に障ることいっちゃいましたか?」



「いや、どうも、嬉しいんだけど喜ぶのが苦手なだけだよ」




こんな完璧な作り笑顔が出来るのに、喜び方をしらないなんて珍しい。




職業の違いなのだろうか。




「そうですか、良かった。桐崎さんみたいな素敵な方に嫌われたらどうしようって、不安になっちゃいましたよ」




私は上目遣いで、ちょっと寂しそうに言った。




金がある男に媚びるときは、大抵寂しさをアピールすれば釣れた。



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