ペテン師の恋
これほど、動揺したのは初めてだ。胸の鼓動が速くなる。私はそれを静めようと胸を抑えた。




唖然としている私に、彼は帽子を外し、私の横を通り過ぎた。




「入り口でつったってないで、ソファーに座りなよ」



彼はソファーに座り、自分の隣をポンポンと軽く叩き言った。




私はおごつかない足取りで彼の隣に座った。




私はこのとき、客に初めて芹澤朱美としての素を見られた。




こんなとき、どんな表情を作ればいいか解らない。




このとき、初めて目の前にいる彼を怖いと感じた。




自分の素顔なんて




自分でもよくわからないのに




彼に見透かされてるような感覚に陥り




今まで感じたことのない恐怖が私を襲った



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