ペテン師の恋
彼の複雑な表情を見て、私は自分のペースを貫くように聞いた。




「この蝶、気になる?」




彼は、我に返り、複雑な表情を完璧には消せないまま、ひきつった笑みを作った。




「君みたいに、美を意識してる人には珍しいと思って…」




私は、少し勝ち誇った笑みを浮かべ、この蝶の話をしてあげた。




「この蝶は、母に貰った最後の誕生日プレゼントなの」




「最後の?」




彼は真剣な顔で聞いた。




「16歳の誕生日に、母と親子の縁を切ったの。捨てられたんじゃないわよ?私が母を手離してあげたんだから」




私も、実は母の話をするのは得意ではなかった。




すぐに、あのときのことを思い出してしまうから。




だから、普通の客には話したことない。




でも、朱一には本当のことを話さなきゃ、勝てない気がしていた。




売られた喧嘩は買う。




でなきゃ、私のプライドを潰されてしまうから。



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