ペテン師の恋
「手離した?子供に墨をいれるなんて、普通の親ではなかったんだろうね」




彼は皮肉だけいうと、私から身を離した。




私も胸元を整えながら、ソファーに座った。




「これは、私が望んだことよ。母を手離す覚悟をしたときに、消えない母からのプレゼントが欲しかったの」




「何故、蝶なんだ?」




そこを聞く?




普通なら、母を手離した理由とか聞きそうなのに、本当に読めない男だ。




「母が朱色好きだったの。だから、私の名前にも入っているわけ。蝶々は幼い頃の母との思い出…もあるけど、個人的にも蝶に惹かれているからかしら」




「そう…」と呟く彼は、私の顔を見ることなく、ぼんやりと正面を見ていた。




どうしたんだろう?始めの活気が無くなっていた。




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