ペテン師の恋
彼は立ち上がり、キッチンへ行き水を飲んだ。




「君も何か飲むか?コーヒーでも紅茶でも何でもあるが…」




朱一は先ほどとは別人のように、ただ、冷たい表情で私に聞いてきた。




「ありがとう、ココアはある?仕事終わりはいつも家でココア飲むの」




「あるよ。意外だな、夜の蝶がココアなんて」




彼は微笑していった。




なんだか、いきなり普通の会話をされると、気が抜けてしまう。




これも作戦?




そう感じたが、普通にココアを用意して持ってきてくれた彼の表情は心を閉ざしたように冷たいままだった。




これが、彼の素顔なのだろう。




他人に心を開かない。




私と朱一はやっぱり似ている。




でも、そんなこと、口にはださない。




彼が私を陥れたいと思っていることは、痛いほど感じるから。





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