ペテン師の恋
料理がきても、朱一は私の隣で食べていた。





狭いが、追い出す気にもならず、私は、肘が当たらないように気を付けながら食べていた。





料理の話しなど話しながら、私は朱一の暮らしを少しずつ聞いてみた。





「いつから小説かいてるの?」





「10年前からかな。始めは絵ばかり描いていたけど」





「そうなんだ。じゃあ、幸せな終わり方にしないのは?」





朱一は苦笑して、


「なんか、取材を受けてる気分だよ」





私としたことが、プライベートに仕事の話しばかりふるのはタブーなのに、なかなか上手い会話が出来ない。





「ごめんなさい、つい…」




私は黙りこむと、朱一は丁寧に私の質問に答えてくれた。





「まあ、自分が幸せじゃないのに、わからない感情を文字にする力は僕にはない」






今、幸せではないんだ。





彼は素顔を隠すように、小さく微笑んだ。




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