ペテン師の恋
「でもね、ある日、母は恋をしたの。いつからか、家を空けたりしない母が、朝まで帰らない日とかでてきて…」





夕方、学校から帰り、ご飯を作って待っていても、メールで

「ごめんね、今日は帰りおそくなります」

と書かれた文が何度か来るようになった。






「中三の頃からでさ、さすがに私も好きな人が出来たことくらい察した。夜中に、何度も私との写真を見つめて、一人で泣くときもあったし、きっと、母は苦しんでいるんだって痛感した…」





子供ながらに、必死で母を悲しませない方法を考えていた。





その度、独りになることを恐れ、涙を流した日もある。





「大好きな母だから、私をしっかり愛してくれた母だから、母に幸せになってほしかったの。だから、私は決意したの。お母さんを手離せば、親子じゃなくなれば、母は全霊で好きな人のもとへ行けるから、だから、私は16歳の誕生日に、少しでも母を忘れたくなくて、胸元のタトゥーをいれてもらったの」





お母さん、
私はあなたを愛してたから、手離したの。




ちゃんと届いていたかな?



別れ際、罪悪感で涙に濡れた母の顔がふと、脳裏によぎった。








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