ペテン師の恋
食事を終えると、朱一は私を真っ直ぐ家まで送ってくれた。





始めより、少しぎこちない態度になってる気がする。





どうしてだろう。






「タクシーで通っただけなのに、よく覚えていたわね」





何か話したくて、でも、こんなことくらいしか話せなかった。





「ああ、わかるさ、この道は昔、良く通ったから、懐かしくて」





きっと、彼は嘘をついている。





でも私はあえて、きづいたていないフリをした。





今は、何も聞いてはいけない気がした。






「そう、今日はありがとう。よかったら、寄ってく?」





自分から誘うなんて初めてだった。





だけど、彼は見えない壁をいつのまにか張っていた。




「やめとくよ。今日はゆっくりおやすみ」





朱一は私の頬に唇を押した。





今度は唇ではないんだ。





そんな不満を抱えながら、私はマンションへかえっていった。





< 84 / 278 >

この作品をシェア

pagetop