神龍の宴 覚醒の春
凛は全く覚えていないようだが。


恥ずかしくて今にも泣きそうになっていたその時の自分に、凛は屈託なく笑いかけてくれた。


その笑顔がとても優しくて。


ぱっと見、素直にカッコイイとも思った。


整った顔立ちで、手足が長くて、なんだかいい匂いまでして。


凛のおかげで、絶対に合格したいと思って試験を頑張ったのだ。



本当なら醜態を曝した事がショックで、受験どころじゃなくなるかもしれなかったのに。


だから高校の入学式で、同じクラスに凛の姿を見つけた時には運命すら感じてしまった。


後になって、凛が受験日の事を覚えてなさそうだと気づいた時にはがっかりしたものだが。


生来、内気な生活で、男の子とあまり話した事もない。


それが真耶子と仲良くなったおかげで凛と同じ友達の輪に入れてもらえるようになった。


絵美はいつも凛を見つめていた。


その笑顔、背中、長くて綺麗な指。どれも大好きだ。色素の薄い、サラサラの髪に触れてみたい。指に触れてみたい。


願いつつ、告白もできずに一年が過ぎて、もっと近づきたい一心で今日は家まで来てしまったが。


「桐生くん、迷惑じゃないのかな。急におしかけちゃって…」


「大丈夫だよ。凛、優しいから」



あまり的確な返答になっていないようだが…。


コンビニでお菓子を買って桐生家まで戻ると、凛はようやく帰宅していた。


「いらっしゃい」


ちょっと余裕があったのか、Tシャツにジーンズというラフな格好で凛が迎え出てくれた。ラフと言ってもシャツはバーバリーでジーンズもそれっぽい。型崩れしていない、綺麗めのシルエットが凛によく似合っている。


「ごめんねー。急に」


真耶子が一応愛想笑いしてコンビニの袋を差し出した。


「ったく、お前には負けるよ。あ、爽ならまだ帰ってないからな」


「ええーっ。何処にいるの?」


「俺が知るわけないでしょ。あ、二人とも上がって」

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