神龍の宴 覚醒の春
凛はテレビを消すと、飲み物を取りに続き間のダイニングへ消えた。
広すぎて、何処にいてよいか戸惑ってしまう。
しかも、あまりゴチャゴチャと余計なものがないので、尚更落ち着かなかった。
「アイスティーとかでいい?うち、今こんなんしかないわ」
凛がグラスを乗せたトレイを手に戻ってくる。
「いいけど、凛の部屋には入れてくれないの?」
「俺、今爽と相部屋なんだけど、まだ荷物片付けてないから。こっちで勉強しよ」
「相部屋?えー。なんで?こんな広い屋敷なのに。部屋余ってんでしょ」
「イロイロあるんだよ」
そう言ってから、凛は一旦考えて、また口を開いた。
「今日から、親父の知り合いの子を預かる事になったんだ。まだ着いてないみたいだけどね。俺の部屋はその子に使ってもらうことになったからさ」
それが女の子であることはなんとなく伏せて、凛はソファに腰かけた。
「で?勉強するんでしょ。さっさと始めようぜ」
「ねぇねぇ。部屋片付いたら、今度見せてね?」
真耶子が悪戯っぽく笑う。
「はいはい。面白くもなんともない部屋だけど。それでもよかったらどうぞ」
凛は肩をすくめて真耶子に言った。
「約束だよー」
二人のやり取りを見ながら、絵美は羨ましく思う。
真耶子が好きなのは、凛の双子の兄であることは知っている。
凛達は文系で、爽は理系なので、クラスは全く別棟にあった。それでも校内で何度か見たことはある。
凛と同じ顔、声、体つき。外見はそっくりだが、しかし似てない双子だと絵美は思う。
雰囲気が全く違う。爽と凛、二人同じ服を着て並んでいても、絵美は二人を見分ける事はたやすいと思う。
まるで同じグラスに、違う飲み物を注いだような感じ。