神龍の宴 覚醒の春
駅までの道のりはあっという間だった。
けれどほんの一瞬、触れ合った時の温もりが忘れられない。
凛も同じ気持ちなのだろうか?不意のアクシデントでまた少しだけ距離が近づいたような気がして、頬が緩む。
改札口まで来て、改めて絵美は凛に向き直った。
「送ってくれて、ありがとう」
「こっちこそ苦手科目を教えてくれてありがとう。気をつけて帰れよ」
「うん…あの、桐生くん」
「なに?」
凛が小さく眉を上げる。
絵美はドキドキしながらも、込み上げる想いを伝えようとゆっくりと口を開いた。
「桐生くん、私…桐生くんの事が…」
しかし最後まで言い終わらないうちに、改札口から見知った顔が現れた。
「爽」
凛が驚いて大きな声を出した。絵美もつられて改札口の方を見ると、そこには制服姿の爽の姿があった。
爽は凛とよく似ているが、凛より眼光が鋭くて、なんだか怖い感じがする。
身のこなしも普通の高校生とは違い、磨き抜かれた鋭利な刃物のような切れがあった。
爽は凛と絵美を一瞥しただけだったが、絵美は告白をあきらめて、慌て凛にサヨナラをした。
「今日は本当にありがとう、桐生くん」
「あ、ああ。また明日な、橋口」
絵美は爽とすれ違い様、ぺこんと頭を下げて、人並みの向こうへ消えて行った。絵美は何を言おうとしていたのだろう。
…桐生くんの事が…。
あれは多分、気持ちを伝えようとしていたのではないか。そう考えると、凛はなんだか絵美の言葉の続きが聞きたかった。
「彼女?」
爽は凛の所で一旦足を止めると、低い声で尋ねた。
「あ、いや違う。友達だけど…」
凛はしかし、自分の気持ちの変化を素直に言葉にする。
「でも今、気になってる子だよ」