神龍の宴 覚醒の春
爽は無言のまま、先に歩き出す。
その背中について凛も駅を後にした。
家までのほんの5分の道のりが、いつもより遠く感じる。きっと爽が何を考えているのかちっともわからないせいだ。
双子だけど、全くわからない。
爽にとってはきっと、凛が誰と付き合おうと関心などないのだろう。絵美の事も全く眼中にない様子だった。
しかし学校が終わってから今まで、爽は何処に行っていたのか。
聞いてみようかと思ったが、無視されるような気もしたので、凛はあえて黙って爽の後に続いた。
双子が揃って家に帰り着くのと、開の車が邸内に滑り込んできたのとは、ほぼ同時だった。
爽と凛の真横につけられた車の助手席から、小柄な人影が出て来る。
そこには、明らかに異国の血が入った、綺麗な顔立ちの少年がいた。いや、少年に見えたが、それが高原遥都だった。
「爽と凛が揃ってご帰宅とは珍しいな。俺は車を停めてくるから、この子を頼むよ」
開は運転席の窓から顔だけ出してそう言った。
「高原遥都です。お世話になります」
遥都は淡々と言って、双子に頭を下げる。
爽は無言で会釈を返し、さっさと玄関に向かって行ってしまった。凛はそんな爽を見咎めたが、とりあえず遥都に向き直って、遥都の手にしている荷物を受け取る。
「桐生凛です。あれは双子の兄の爽。愛想なくてごめんね」
凛は遥都に笑顔を見せて、玄関へと促した。
明るい電灯の下で見る遥都は、榛色の瞳が印象的な、中性的な雰囲気の少女だった。
弟の勢の方が、余程女の子らしい顔立ちをしているかもしれない。
そんな事を考えていた凛の背中に、遥都がぽつりと言葉を発した。
「アデュス、という名前に心当たりはありますか?」
「え?」