神龍の宴 覚醒の春
開は先回りして爽の前に回り込むと、爽の両目を見据えて静かに言った。



「どうする?ハダサ」


と。しかしその意地悪な呼びかけに爽は応じない。


開は肩をすくめると、車庫の方へ歩いて行った。



…どうにもならないのは百も承知している。どうにもしようがないではないか。

深い憤りに揺さぶられながらも、爽は叫び出したい衝動をかろうじて堪えた。


必ず探し出すと約束した愛しい人は、今誰よりもそばにいる。


だがその人は、自分と同じ姿形をした双子の弟だ。


その現実に苛まれる自分にとっては、この世界の方が悪夢のようだ。


なぜ、と何万回、何億回繰り返したところで、この現実は変わらない。


行き場を失った狂おしいほどの想いが、日毎に心を蝕んでいく。


爽は、ほとんど度の入っていない眼鏡に手をかけるときつく唇を噛み締めた。




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